2009/10/27 OTC Cadaveric Hand&Wrist course 1日目 [平日]

8:40 OTC(Osteosynthesis & Trauma Care Foundation)主催のCadaveric course : hand and distal radius ; Strasbourgに参加する。始めにイントロダクションということで日本でも有名なTaglang教授が挨拶してから開始となった。続けてCourse outlineをベルギーのStockmans教授(今回のcourse director)がされる。まだ若く聡明な印象。以前ルイビルに留学していたことがあるそうで英語の発音が良い。本日は講義中心で明日がcadaverを用いた実習になる。この施設(IRCAD)の紹介もなされたが、ここではCadeverを用いた様々なトレーニング(腹腔鏡、関節鏡など)が行われている。昨年台湾にも同様な施設が建設された。日本でこのようなコースは基本的に開催できないだけに羨ましい。
IRCD外観.jpgIRCD建物.jpgコースディレクターの説明.jpg
9:00 午前中前半のセッションは橈骨遠位端骨折についての講義だった。レントゲンの正しい撮影方法(手関節正面での尺骨遠位端のECU grooveの見え方など)からscapholunate instabilityの診断方法など画像診断から始まる。
9:20 続いて橈骨遠位端骨折の分類についての講義では、数多くの分類を解説してくれた。Abraham Collesの文献の引用から始まり、当時は保存的治療が中心で外観は悪いが機能的に大きな問題がなかったこと(論文発表当時(1830)の平均寿命は35-6歳だったとのこと)とか、多くの分類があるが再現性に乏しいこと、治療に直結している分類が少ないことなどを述べておられた。世界中で最も汎用されているのはAO分類だが、講師の先生(Stockmans教授)は、Fernandezの分類を愛用しているとのこと。この分類は受傷メカニズムによって分類され、それぞれのコテゴリーによって治療指針が決まるため、臨床的には有用だそうだ。しかしstudyでまとめる際には煩雑だと言っていた。
9:40 USAルイビルのGupta先生(インド系?)の講義では、知識の整理をさせてもらった。主に橈骨遠位端骨折の治療の変遷について文献的考察を中心に述べておられ解りやすかった。特にScott’s Parabolaという図を用いて橈骨遠位端骨折の手術の変遷を説明しておられたのが印象に残った。掌側ロッキングプレートが考案され、論文となり、それを支持する報告が増え、一気に普及していった経緯、今後は合併症などの報告も増え、反省期に入っていくという感じ。ダメなプロダクツであれば、これから一気に廃れていくのかも知れないが、このプレートは暫く生き延びていくだろう。
10:30 各講義の後に質問・討論時間があるのだが、ロシアからの参加者集団が幅を利かせていて(10人以上参加して最大勢力)、毎回質問する大柄の男性もいる。机の前にはvoting systemとマイクが備え付けられているので、マイクをオンにすれば自由に質問できるし、演者が時々聴衆の意見を求めるのだが、その時に番号を押せば、それがすぐ結果のグラフとなって反映される。今後大学の講義などでも取り入れられていくことだろうと思われる。
熱心に聞き入る参加者たち.jpg
11:00 質問などで長引き時間が押してしまっていたが、ようやく休憩になった。休憩時間は縮めずに充分に取るところは日本とは違うなと思う。いつものように軽食やジュース・コーヒーなどが振る舞われる。日本人は自分だけなのでまずは周りの動向を伺って見る。
11:20 次は、橈骨遠位端骨折の治療に対してそれぞれの得意分野の先生方がまず講義をし、それから討論していくという感じ。Kapandji pinningを愛用しておられるフランスの先生は、この方法が好きな理由にKapandji先生が好きだからと言っておられ、参加者の笑いを誘っていた。いい方法だけど残念ながらused technicqueになったと言っていたのが印象的だった。この点に関してはO茂先生の論文がevidenceになっていることは間違いない。次に創外固定を愛用している先生は、今でも使用しているということで熱く語っていた。現時点ではひいき目に見ても適応は限られており、勝ち目は少ないような気がするが。最後に掌側ロッキングプレートについてであったが、私も論文作成のために関わった分野でもあるので大方の内容は理解できている。方形回内筋の処置、尺骨茎状突起骨折の処置については殆ど言及されていないのが個人的には寂しい感じがした。
13:00 全体的に遅れ気味でようやく昼食となる。ロビーはちょっとしたカフェレスト風になっており、そこで参加者・facalty一緒に食べる。食事をもらう列で待っていると、日本語で話しかけてくれる先生がいてびっくりする(アナタハ日本人デスカ?)。ここストラスブール大学のhand unitの教授であるPhilippe Liverneaux先生だった。以前、日本で研修をしたこともあり、親日家のようである。多くの日本のhandsurgeonの名前を知っていた。京都が大好きとのことであった。これが日本風だと言ってお互いお辞儀しながら名刺交換をした(この光景は欧米人には可笑しく映るらしい)。食事は、独りで寂しげに食べている身長185cmくらいあるリトアニアから1人でやってきたSmikus先生(32歳と言っていた)と一緒にした。気の弱そうな感じが親近感を覚え近づいてみた。暫く挨拶なんかをしていると、デンマークから来たRasmussen先生と言うちょっと年配の先生も座って来た。1人でやって来た人は似た者同士で集まる傾向にあるのだろう。このおじさんは、娘が日本の漫画や映画が大好きなので一緒に良く見るとか言っていた(宮崎駿監督作品がお気に入りとのこと)。この2人とは折をみてセミナー中は一緒に過ごすことが多くなった。
13:40 午後の始めのセッションは、橈骨遠位端骨折治療の合併症やDRUJの問題などについて討議された。橈骨遠位端骨折治療後の尺側部痛の頻度については、1990年代は25-40%との報告がなされていた。しかし、この当時はピンニングや創外固定など主体となる橈骨側の治療がまだ満足できるものとは言えない時代だったためだ。この当時は橈骨側が術後転位を来すことも多く尺骨茎状突起骨折を止めるべきだったのだろう。ロッキングプレートの登場以降に関しては、我々の報告もさることながら、尺側部痛の発生頻度はかなり減ってきているものと思われる(当院dataでは軽度尺側部痛も含めて5%以下:follow up期間14ヵ月)。
解りやすい講義だったGupta先生.jpg
ルイビルのGupta先生に、尺骨茎状突起骨折を合併した場合、どのようなケースに内固定するのか?尺側部痛の発生頻度は?と質問してみた。答えは、まず橈骨側を固定した後に前腕回内位で徒手的にDRUJの不安定性を評価して不安定であれば(この評価についても突っ込んで聞いてみたが、明確な返答は得られず。Soft endという表現をしていたのみ)固定するとのこと。尺骨茎状突起骨折の生じた部位ではないとのこと。当然骨性要素がなくても不安定性がある場合はTFCCのrepairをするとのこと。しかし、二期的にやっても良いのかも知れないとも言っていた。やはり尺骨茎状突起骨折側の治療については若干治療体系に変化が見られている印象を受けた。また、DRUJ不安定性を生じた場合のサルベージ手術として、腕橈骨筋を筋腱移行部で切離し、遠位橈尺骨をrappingするという術式を説明してくれた。明日demoもあるそうだ。
15:10 coffee breakとなる。今日は座学だけなので疲れてきた。内容的には興味深い分野でもあるので眠くはならなかった。リトアニアのSmikus君はもの静かだ。大学病院(リトアニアには医学部は2つしかないとのこと)では、橈骨遠位端から遠位の分野を扱っているとのこと。いわゆるhand surgeonで整形のトレーニングはレジデント時代に少ししかやっていないとのこと。医学部は6年間で卒後試験を受け、1年インターン(全科を回るそう)をした後、2年間外科系なら外科のレジデントをするとのこと。それからorthopaedicなどに分かれていくそうである。Handはorthopaedicとは別でplastic surgeryもあまり扱わないのだそうだ。ちょっとドイツとは異なるよう。
15:30 本日最後のセッションは手部骨折・外傷についてであった。中手骨骨折、指節骨骨折と講義があり、最後に軟部組織複合損傷についてGupta先生が激しい症例をいくつも呈示してくれた。ルイビルにはかなり重度手部複合損傷がやってくるようだ。Severeな症例も見事に再建されているのには感動した。また、特にfix & flapの概念を強調されており、可能な限り早期に血流のある軟部組織で損傷部位をカバーした方が成績良好ということをdataを示しながら述べていた。日本でも北海道の土田先生が良く言っておられることである。Technicalに可能であれば目指せばならない到達点と思われる。
16:50 最後にcase disscussionがあった。机に備え付いているvoting systemを用いて参加者全員で検討していく。なかなか治療に悩ましい症例が続く中、PIP関節脱臼骨折(背側・掌側ともに骨片あり)に対して、経皮的に掌背側からscrew固定を行って良好な結果を得たという症例には驚かされた。
17:40 講義終了後にRobotic surgeryのDavinchシステムについて、Liverneaux先生が解説してくれた。また、実際にcadaverを用いて尺骨神経剥離のデモもやってくれた。あとで私も機械を扱わせてもらったが、思いのほか操作は簡単でかなり思い通りに動いてくれるのには驚いた。現在、適応は限られるだろうが今後は進歩していく分野(特にマイクロサージャリーなどでは)だろうなと考えさせられた。
遠隔手術装置ダビンチ.jpgダビンチのアームたち.jpg
18:10 1日目終了。バスに乗り込みホテルに戻る。
19:30 ホテルから食事会会場にバスで向かう。ストラスブールの景勝地、プチフランスと呼ばれる運河の畔の木組みの家々の街並みが美しい一角ということである。夜ではあったが観光する時間があまりなかっただけにちょうど良かった。
20:00 街灯のランプが暖色で何とも落ち着いた一角である。スイスやドイツの南西部に雰囲気が似ている(ストラスブールはアルザス地方に属しており、食べ物や文化など独特な雰囲気を醸し出している)。
夜のプチフランスエリア.jpgアルザス料理レストラン前.jpg
21:00 リトアニアのSmikus君とデンマークのRasmussen先生、S社の広報女性やプロダクツ担当の男性、クウェートの先生と一緒のテーブルだった。フランスの女性はこういう場では結構派手は格好になる印象。またドイツ女性よりスカート着用率が高いような気がする。ファッションにも敏感なストラスジェンヌが多いのだろうか?
レストラン内部.jpg
23:20 かなりいい感じになってホテルに戻ってきた。明日は起きられるか自信がなかったので妻に連絡して起こしてもらうことにする。
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